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2014年06月14日 (11:04)

「マリファナ合法化」の功罪――米コロラド大学は大人気だが

日本では目下、人気ミュージシャン「CHAGE and ASKA」のASKA(56)が覚醒剤所持容疑で逮捕されたことで、薬物への関心が高まっているようです。これまでも芸能人などの薬物使用問題は度々クローズアップされてきましたが、米国では最近、別な視点でドラッグに対する関心が高まっています。それは「マリファナ(大麻)合法化」の動きです。

 今年のコロラド大学ボルダー校における州外からの入学志願者数が、昨年に比べて43%も増加した、というニュースが流れました。大学側は、「その原因は不明」としか言いませんが、多くの米国人は、娯楽用マリファナの合法化による効果と考えています。ただし、ほとんどの志願者は18-19歳ですから、21歳になるまでは、合法的にマリファナを購入することはできません。

 現在、米国の21州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)では、医療用のマリファナが合法化されています。医療用マリファナは、がんによる痛みや食欲低下、がんの治療による吐き気などの副作用、HIVやエイズのさまざまな症状の緩和以外にも、腰痛や慢性の痛みの緩和などにも処方されています。

 さらに、2012年11月には、娯楽用のマリファナの使用に関して、ワシントン州、コロラド州とオレゴン州が住民投票を実施しました。その結果、ワシントン州とコロラド州において、賛成多数により、娯楽用のマリファナの合法化が決定されました。これによって、少量(約28グラム)の所持と、公共の場所以外での使用が認められたのです。そしてさらに、2014年1月からは、全米で史上初めて、コロラド州において娯楽用マリファナの販売も解禁されました。コロラド大学の志願者倍増も、こうした動きと決して無関係ではないだろうと見られているわけです。ちなみに、米紙『ワシントン・ポスト』によると、ワシントン州とコロラド州に続き、すでに13の州が娯楽用のマリファナの合法化、16の州が医療用マリファナの合法化を検討しています。【Prospects for marijuana legalization in 2014,The Washington Post,Feb.9】

 日本では、マリファナの所持や栽培は「大麻取締法」により犯罪になりますから、ここ数年の米国のこうした状況を奇異に感じる方もおられると思います。ですが、この米国のマリファナ合法化の急速な動きは、観光、ビジネスや留学のために渡米される方はもちろんのこと、そうでなくても、米国社会の現状として知っておくべき重要な問題だと思います。誤解しないでいただきたいのですが、決して娯楽用のマリファナの合法化を日本でも進めるべきだと提言したいわけではありません。あくまでも、日米の社会の違いをしっかりと認識していただきたいと考えてのことです。

■合法化で「犯罪激減」「税収増」

 2012年に50歳の国民を対象とした米国ミシガン大学の研究者らの調査によると、なんと74%がマリファナの使用経験があることが判明しました。実際、オバマ、クリントン、ジョージ・W・ブッシュなど、多くの歴代大統領もマリファナ経験者ですし、米国人にとっては、それほど驚く結果でもないようです。

 もちろん、マリファナを違法に所持・使用した場合は、米国でも犯罪になります。例えば2010年、カルフォルニア州において、5万7262人がマリファナ所持のために逮捕されました。警察、裁判所や刑務所などにかかる費用は、実に年間1億ドル(約100億円)にもなり、当然ながら税金から支払われました。同州では、すでに1996年に医療用のマリファナが合法化されていますが、現在、娯楽用のマリファナの合法化も検討しています。

 また、現時点で、医療用、娯楽用のマリファナの使用がともに違法であるニューヨーク州では、アンドリュー・クオモ知事が2014年1月、20の医療機関に限定して、医療用マリファナを処方できるようにする計画を発表しました。ちなみにニューヨーク州では、マリファナ所持のために、2010年だけで10万3698人が逮捕されています。税金から支払われる費用だけではなく、刑務所のスペースも大きな問題となっています。

 さらにマサチューセッツ州では、2012年に医療用マリファナが合法化されました。ところが、合法的な医療用マリファナの販売店がありません。というのも、販売店の設置場所や誰が販売するかなど、多くの問題が今も議論中であるためです。ですから、マリファナ使用者は、違法に闇で入手しています。今後、州政府に認められた販売店が開店すれば、マリファナによる税収は、莫大な州の財源になります。また、闇でのマリファナの違法売買や犯罪がなくなると見られています。

 今回、娯楽用マリファナを合法化して販売も解禁したコロラド州では、2010年にマリファナ所持のために1万343人が逮捕され、年間3800万ドル(約38億円)が刑務所にかかる費用などのために税金から支払われました。それが、今年の支出見通しはゼロです。逆に、2014年になって最初の2カ月だけで、マリファナの販売で617万ドル(約6億円)の税収を得ました。今ではマリファナの自動販売機なでが登場し、マリファナを使ったクッキーやキャンディ、マリファナ茶などまで発売されています。さらにマリファナを使った料理の本も、多く発売されています。

■「酒」「タバコ」の方が有害

 では、気になるマリファナの危険性はどうなのでしょうか? 最近は、このような米国社会の動きを反映し、マリファナに関する研究が急増しています。

 創刊から200年近い歴史があり、世界中で高い評価を受けている英国の医学雑誌『ランセット』に2010年、20種類のドラッグがもたらす害について16項目で評価したランキングが報告されました。そのうち9項目はドラッグが本人に及ぼす害で、7項目は他人へ及ぼす害です。その結果は、最高値を100とすると、アルコール72、ヘロイン55、クラックコカイン54、タバコ26、マリファナ20というものでした。この研究によれば、マリファナよりもアルコールのもたらす害の方が極めて高いと判定されたわけです。【Drug harms in the UK: a multicriteria decision analysis,The Lancet,November 2010】

 また、国際がん研究機関(IARC)による発がん性評価では、喫煙とタバコの副流煙、アルコール飲料は、最も強い「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」と判定されています。この点から考えると、さすがに“医療用アルコール”や“医療用タバコ”などは将来にもあり得ないでしょう。

 ところが、マリファナに関しては、これまでにも多くの発がん性に関する研究がなされてきましたが、特に発がん性は認められていません。むしろ、大麻の成分であるカナビノイドには「抗がん作用」が示唆されており、そちらの方向で研究が進められているほどです。

 もちろん、だからといってマリファナがまったく“無害”であるというわけではありません。有害の深刻な一例として、例えば、マリファナによる知能低下が懸念されています。米デューク大学の研究者の報告では、10代でマリファナを始め、20-30代でも常用し続けると、知能指数(IQ)が約8ポイントも低下していることが判明したのです。ただし、成人から始めた場合は、知能の低下は認められませんでした。

【Persistent cannabis users show neuropsychological decline from childhood to midlife, Pnas,August.27,2012】

■長期的な健康影響はまだ未証明

 現在、米国政府は、医療用、娯楽用ともに、マリファナ合法化への動きに強い反対意思を表明しています。ただし、マリファナに関しては、連邦法よりも州法が重要とされています。この勢いで合法化が進めば、将来的には、連邦法も改正されることが予想されます。

 最後に、参考までに価格についても触れておきます。医療用のマリファナは、まだアメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)に承認されていません。ですから、保険が効かないので、住んでいる地域、マリファナのタイプなどによって価格に大きく差があります。

 コロラド州の娯楽用マリファナは、例えば、量についてはホットドッグのソーセージを8分割した1つを想像して下さい。あるいは、タバコ4-6本分と言い換えてもいいかもしれません。その分量が65ドル(約6600円)です。

【The Average Price of an 1/8 of Legal Weed in Colorado is About 65 Dollars,The Marijuana,January.2,2014 】

 こうした合法化の流れから、米国ではいまや、マリファナは多くの投資家にとって大きなビジネスチャンスと受け止められてもいるようです。実際、これまで肺がんなどのリスクのために消費者がかなり減少した米国タバコ業界も、マリファナ販売ビジネスを検討し始めているそうです。

 ただし、特に若者の娯楽用マリファナの使用による、他のドラッグ使用への移行の懸念や依存性については、いまだ賛否両論です。さらに、長期的な健康への影響も、まだまだ科学で証明されていない点があります。

 日本とのあまりの認識の違いに驚かれる方も多いでしょうが、これが現在の米国社会の現実なのです。


医学博士・大西睦子


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