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2015年08月28日 (10:38)

がん治療に光明 「ウイルス療法」で免疫の力を味方に〈週刊朝日〉

 パソコンの画面上でうごめく無数の細胞。それが時間経過とともに、みるみる小さくしぼみ始め、そして消えていった――。

「悪性の脳腫瘍細胞が入ったフラスコにがん治療用のウイルス“G47Δ(デルタ)”を入れて、時間を追ってその様子を撮影していったものです。まず脳腫瘍細胞の約30個のうちの1個がG47Δに感染し、2日間で全滅しました」

 こう話すのは、G47Δの生みの親、東京大学医科学研究所教授の藤堂具紀(ともき)医師だ。ウイルス療法研究の最先端拠点である米ジョージタウン大学とハーバード大学でがん治療用ウイルスの開発に関わり、G47Δを開発。その後、日本で臨床製剤の製造法を確立させ、がん治療薬として完成させた。

 現在、がん治療といえば、「手術(外科療法)」「薬物治療(化学療法)」「放射線治療」という3大療法が単独で、あるいは組み合わせて行われる。技術の目覚ましい進歩で治るがんも増え、がんサバイバーという言葉もあるように、がんと共存できるようにもなった。それでも国民の死因の第1位であることはかわらない。

 そんななか切望されているのが3大療法に次ぐ治療法の開発。ウイルス療法は有力な候補の一つだ。従来とはまったく異なるアプローチでがんをたたくというこの治療法。どんなものなのか。藤堂氏は解説する。

「ウイルスは宿主の細胞内に入り込み、細胞分裂の仕組みを乗っ取って、増殖していきます。細胞内である程度まで増えると、今度はその細胞の細胞膜を破壊して外に出ていき、また次の細胞に入り込む。これらの性質をがん治療に利用したのが、ウイルス療法です」

 G47Δのもとになったのはヘルペスウイルス(単純ヘルペスI型)。くちびるなどに水疱をつくるタイプで、成人の7~8割が一度はかかったことのあるありふれたウイルスだ。G47Δは、“γ(ガンマ)34.5”“ICP6”“α(アルファ)47”という三つの遺伝子を遺伝子工学技術によって改変したもので、藤堂氏は、正常細胞で増殖する機能を失わせてがん細胞だけで増え、極端に毒性を弱めることに成功した。

「抗がん剤や放射線治療で副作用が起こるのは、がん細胞だけでなく、正常細胞にも作用が及ぶためです。G47Δはがん細胞だけで増えるので、理論上は副作用を抑えることができます」

 さらに藤堂氏は、「ウイルス療法の注目すべき点は、“免疫の力も味方にする”ところ」と強調する。

 がんと免疫の関係は複雑だ。

 本来、がん細胞には免疫が働きにくい。本人の細胞から発生しているため、仲間の細胞とみなされるからだ。だが、最近になって、がん細胞は正常細胞とは違ったタンパクを持っていることが明らかになった。“がん抗原”と呼ばれるそれらのタンパクがうまく免疫システムに認識されれば、がん細胞は免疫に排除される。

 しかし、がん細胞は免疫がターゲットとする目印を自ら覆い隠してしまうなど、さまざまな“隠れ蓑”があるため、がん抗原が免疫システムになかなか見つからないのだ。

「免疫システムをすり抜けて生き残ったがん細胞は、どんどん増殖を始めます。ところが、G47Δに感染したがん細胞は、ウイルスのタンパクを持った状態で破壊されます。免疫がウイルスを排除する過程で、タンパクによってがん抗原が認識されるため、免疫細胞はウイルスだけでなくがん細胞にも攻撃を仕掛けるようになるのです」(藤堂氏)

“ウイルス感染による抗がん効果+免疫による抗がん効果”。この二つが期待できるところが、ウイルス療法の大きな特徴ということだ。最近、悪性黒色腫(メラノーマ)という皮膚がんに保険適用になった新薬に「免疫チェックポイント阻害薬」がある。これは、免疫細胞の攻撃性を抑えてしまうような信号が免疫細胞に入るのを防ぐ薬だ。「ウイルス療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用すれば、有効性はさらに高まるのではないか」と藤堂氏は期待する。

※週刊朝日  2015年8月28日号より抜粋
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