2015年11月18日 (17:08)
岡山県内でがん患者就労支援拡大 官民挙げ相談体制整備や冊子作製
「5年生存率が40%と告知された時は頭の中が真っ白になり、退院後の生活まで考えが及ばなかった」。パートで岡山市の学童保育の指導員を務める女性(54)が振り返る。
女性は2010年に卵管がんが見つかり、仕事との両立は不可能と考え退職した。約8カ月の闘病を経て回復、3年ほど前から再び働き始めたが、正規職員で約280万円だった年収は約100万円に減った。元気になった今、退職したことを後悔しているという。
厚生労働省研究班の調査(12年)によると、4人に1人ががんと診断された後に退職。内閣府の調査(13年)でも、仕事を続けながら通院できると考える人は約3割にとどまった。
だが、副作用の少ない療法が普及し、治療中も働くことができるケースが増えている。岡山大病院腫瘍センター長の田端雅弘准教授は「化学療法や放射線療法は副作用の時期や症状をある程度予測でき、復職の見通しを立てられる場合もある。患者には離職しないよう訴えている」と言う。
県社会保険労務士会は昨年、がん就労支援チームを結成。県内のがん診療連携拠点病院などを訪問し、患者から相談を受けた際は連絡してもらい連携して相談に乗るよう働き掛けている。チーム代表の日笠みどりさんは「働くことは患者の励みになる。事業所側にも労務管理上の配慮などを助言したい」と話す。
今年8月からは同会のホームページでも就労支援の取り組みをPR。24日に岡山国際交流センター(岡山市北区奉還町)で開かれるセミナー(厚生労働省など主催)にも日笠さんが参加し、「大切な社員ががんになったら」のテーマでパネルディスカッションする。
県は条例施行に合わせ、就労などの相談機関や社会保険制度などを説明した冊子「がんサポートガイド」を作製。患者の相談窓口となる患者総合支援センターなどで無料配布している。
ただ、患者総合支援センターの認知度は低く、厚生労働省研究班によるがん専門病院の患者への調査(11~12年)では、センターを知らない人は65%に上った。関係機関の取り組みは緒に就いたばかりとあって、「仕事に関する相談が寄せられるのはまれ」(岡山大病院)という実情がある。
県医療推進課の則安俊昭課長は「働ける人が退職してしまうのは事業所だけでなく、社会にとっても損失。啓発と環境整備に努め、働くがん患者を増やしたい」とし、官民連携でさらなる支援拡充を図る方針だ。