ガン完全克服マニュアル

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2017年06月14日 (10:00)

ワイドショーの「がんが早期発見できてよかった」というコメントについて考える


 この5月、歌舞伎役者の中村獅童さん(44)と歌手の麻倉未稀さん(56)が「がん」と診断されたことを公表しました。芸能人のがん罹患のニュースが相次いでおり、驚きを持って受け止めた人も多かったのではないでしょうか。

 中村獅童さんは右肺に3センチ以下の腫瘍が見つかり、ステージ1Aの早期肺腺がんと診断されました。内視鏡による手術を受けて、2ヵ月間休養をするそうです。また、麻倉未稀さんは左乳房に2センチ以下の腫瘍が2個見つかり、全摘手術を受けると報道されました。いずれも人間ドックの受診をきっかけに、がんが見つかったのだそうです。
.

異口同音に「早く見つかってよかった」というコメントが並ぶが……

 がんと診断された限りは、放置することはできないでしょう。お二人が適切な治療を受けて回復され、一日も早く仕事に復帰されることを私も心から願っています。ただ、お二人の決断とは別に、気になることがありました。それは、この件がワイドショーやネットニュースなどで報道されるたびに、「早く見つかってよかった」「やっぱり検診は大切ですね」といったコメントがされてしまうことです。

 これまでもこのコラムで指摘してきましたが、近年、欧米で行われた臨床試験では、がん検診の死亡率を下げる効果に否定的な結果の報告が相次いでいます。がん検診の効果は私たちが思っているほど大きなものではなく、それによって長生きできる確実な証拠もありません(「やっぱり『がん検診』を受けなくていい理由」など)。

 それに、そもそも「早期発見」が無条件にいいことであるのかどうかは、それほど自明なことではないのです。早く病気を見つけたからといって、必ずしもその人にとって幸せな結果になるとは限らないからです。
.

進行の遅い前立腺がんを手術しておむつが手放せなくなることも

 そのもっともわかりやすい例が、「前立腺がん」です。このがんは進行が非常に遅いため、早期で発見された腫瘍が進行して広がり、さらに転移をして死に至らしめるまで10年以上もかかることが多いのです。

 ということは、70歳の男性に早期の前立腺がんが見つかったとしても、80代もしくは90代にならないと、命取りにならないということになります。ちなみに、日本人男性の平均寿命は80.79歳(2015年)です。したがって、前立腺がんで死亡する前に、他のがんや心臓病、脳卒中、肺炎など、別の病気で亡くなってしまう可能性も十分にありえます。

 前立腺がんの発見には、PSA(前立腺特異抗原)という血液検査が用いられます。70歳のときにPSA検診で早期がんが見つかって、手術を受けたとしましょう。前立腺を無事摘出することができ、「ほっと一安心」となるかもしれません。

 しかし、米国予防医学専門委員会(USPSTF)によると、55~69歳の男性1000人が1~4年ごとにPSA検診を受けた場合、0~1人が前立腺がん死亡を回避できるかもしれない一方で、前立腺がんと診断された110人のおよそ90%が治療を受け、検診を受けた1000人のうち29人に勃起障害、18人に排尿障害が起こるとされています(Ann Intern Med. 2012;157:120-134.)。

 実際に、前立腺がんの手術を受けた結果、尿失禁のためにおむつが手放せなくなる人も少なくありません。つまり、前立腺がんの不安を取り除けた代わりに、その後の人生で日常生活に不便を強いられる可能性があるのです。

 前立腺にがんがあったとしても、とくに高齢者では命取りにならない可能性が高いのですから、その存在を知らずに一生を過ごすほうが、ほんとうは幸せなのかもしれません。実際、USPSTFはPSA検診を「推奨しない」とする「D」ランクに格付けしています。

 また、米国家庭医学会も「無症状の人や余命が10年未満の人には、前立腺がん検診は不必要」と勧告しています。
早期肺がんとして手術していた病変が実は……

 このようなことが言えるのは、前立腺がんだけではありません。たとえば、早期の肺がんです。人間ドックなどでCT検診が普及した結果、「すりガラス状結節」と呼ばれる胸部X線では見つからなかった、淡い影を示す病変がたくさん見つかるようになりました。以前は、早期肺がんと見なされて、積極的に手術が行われる傾向がありました。

 しかし、近年、すりガラス状結節の中には、大きくなるスピードがゆっくりで、転移もしないタイプもあることがわかり、悪性度が低いと診断された場合は、すぐに手術せずに定期的にCTを撮る「経過観察」とされることが多くなりました。

 悪性度が高いと診断された場合や、年々大きくなることが確認された場合は、手術が検討されることになります。ただし、手術をすると当然のことながら肺の一部を切り取ることになりますから、階段を昇るときや重いものを持ったときに息切れしやすくなるなど、呼吸機能が低下する恐れがあります。

 とくに高齢者は、手術による後遺症の影響が大きくなります。ですから高齢者が肺のCT検診を受けて、すりガラス状結節が見つかった場合、あわてて手術してしまうと、生活の質が大きく落ちて、かえって寿命が短くならないとも限りません。

 CT検診を受けず、早期発見しなかったほうが、かえってよかったということも十分ありうるのです。
5万人を10年間追跡してわかった「乳がん検診で乳がん死亡率は下がらない」

 こうした問題が起こり得るのは、高齢者だけではありません。女性では乳がんで同様の問題が指摘されています。

 乳がんと診断された約5万人を10年以上追跡した米国ハーバード大学とダートマス大学の研究によると、マンモグラフィ検診の実施率が10%増加すると乳がんの診断数が全体で16%増加する一方で、乳がん死亡率は下がらないという結果でした(JAMA Intern Med .2015 Sep 175(9):1483-1489)。

 つまり、この研究の結果は、乳がん検診を実施すればするほど「早期乳がん」と診断される小さな病変の発見が増えるけれど、実際には治療しなくても命に別状のない病変や進行のゆっくりながんばかりをたくさん見つけてしまっている可能性があることを示唆しているのです。

 他にも、乳がん検診では死亡率が下がらないだけでなく、命に別状ない病変を見つけてしまう「過剰診断」が多いことを指摘する論文はいくつもあります。しかし、現在の医療技術では、どの人が過剰診断にあたるのか見分けることはできません。

 ですから、乳がん検診を行えば、無用な手術、放射線、薬物治療を受ける人が、ほぼ間違いなく出るのです。日本では乳がん検診は40代から推奨されていますから、当然、若い人の中にも、過剰診断の害を受ける人がいるはずです。

 それに、乳がんの発見が早くなればなるほど、「乳がん患者」として生きる時間も長くなります。若い世代だと仕事や子育てと治療を両立させるのは大変でしょうし、治療が終わっても長く再発の不安を抱えながら生活しなければなりません。

 もし命に別状のない病変や進行のゆっくりながんだったとしたら、もう少し遅く発見してもらったほうが、本人にとってはよかったということもありうるのです。
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